松岡正剛監修『情報の歴史21ー象形文字から仮想現実まで』(編集工学研究所、2021)

知的刺激をふんだんに与えてくれる世界同時年表・最新版が
25年ぶりに出版された。
松岡正剛監修/編集工学研究所&イシス編集学校構成
『情報の歴史21ー象形文字から仮想現実まで』
(編集工学研究所、2021)を読み、眺める。



松岡の巻頭言「人新世に突入した『情報の歴史』の光景」から引用する。


  いよいよ『情報の歴史』最新版を刊行することになった。
  旧『情報の歴史』は1995年(平成7年)までの出来事しか扱っていない。
  阪神大震災やオウムのサリン事件がおきた年だから、だいぶん前だ。
  まだデジタルカメラPHSが発売されたばかり、
  タランティーノの『パルプ・フィクション』が公開されたあたりだった。


  「現在までのばしましょうよ」と言い出したのは、
  吉村堅樹君をリーダーとする編集工学研究所の中核スタッフと
  イシス編集学校の師範や師範代たちである。
  (略)


今回リーダーを務めた吉村の
「『情報の歴史21』の編集構成を了えて」から引用する。


  ◆1990年に発行された本書の初版から30年がたち、
   増補版からも25年が経過した。
   大小さまざまなヘッドライン、
   東西にまたがる5トラックがつくるダブルページ、
   世界同時年表が露わにした「関係のダイナミズム」は
   当時大きな反響と評価をもって迎えられた。
   その後絶版になったために、
   これまで何度も再版を望む声が寄せられていた。
  (略)



旧版・増補版は古書店市場で
10,000円以上の価格がつけられている。
松岡の「初版あとがき」はこんな文章で始まっている。
奥の細道』の書き出しを僕は思い浮かべた。


  ◆年表を歩くことは時間の旅人になることだ。
   情報地理の上を渉猟する旅人である。
   ただ歩きまわるわけではない。
   時の鉄道に乗り、時の飯を食い、そして時の宿屋に泊まる。
   宿屋から出ると、次に行くべき先はいくつも分かれる。
   そのひとつを選び、また”時車”に乗る。
   ときに時行機で時間沙漠を越えることもある。
   おもわぬ場所でおもわぬ相手に出会うこともある。


  ◆青年時代のころから、
   そういう「旅する年表」をつくりたいとおもってきた。
   実際にも大学ノート6冊ぶんをつぶし、
   少しずつ年表づくりをしていた。
   本を読んだりするたびに事項を記入するという方法だ。


   当時は、ノートの項目区分を「空間と時間」「戦争と革命」
   「資本と市場」「科学と技術」「都市と人間」「運動と表現」
   「言葉と身体」「光と音」「媒体と事件」というふうに分けた。
   ただし、世界の現象も日本の現象もともかく一緒に書きこんだ。
   世界史と日本史を分けることだけはしたくなかったのである。
  (略)


吉村の「あとがき」から最後の文章を引用する。


  ◆出版までたどりつけたのは、
   大日本印刷の高精細度スキャン技術によるこれまでのデータの復元、
   イシス編集学校の有志の『情報の歴史』を今の時代に甦らせたい
   という熱意と編集力の提供によるものだ。
   40人くらいがかかわってくれた。
   あらためて感謝申し上げたい。
   最後に、『情報の歴史』というプロジェクトを残してくれた
   編集先達のみなさまに大いなる敬意を表したいと思う。


松岡、戸田ツトム(造本設計。故人)を両翼エンジンとして
1990年に飛び立った時行機。
編集工学研究所、イシス編集学校の有志によって
空白だった25年を飛行し、さらに未来につなぐ希望が生まれた。 
参加チームメンバーに感謝と拍手を贈りたい。
おめでとう㊗️
ありがとう!