クリッピングから
毎日新聞2021年8月21日朝刊
「加藤陽子の近代史の扉」
外部から調達される危機 [「人ごと感」漂う日本 ]
危機に際して「人ごと感」漂う日本人の意識の源流を
加藤は近代史を紐解きながら明らかにしていこうと試みる。
(略)
舞台は1919年のパリ。
4年以上続いた欧州大戦を終結させる会議だった。
そこには、日本の首席全権・西園寺公望の随員、
近衛文麿の姿があった。
会議の主人公は、米国のウィルソン大統領、
英国のロイド・ジョージ首相、
仏国のクレマンソー首相の3人だ。
近衛はその見聞録で、米国の調査能力を称賛した。
早い段階で多くの専門委員会を作り、
中東問題などの議論も準備していた、と。
だが、手だれの英国外交官ニコルソンの認識は違った。
いわく、ウィルソンら「無知で無責任な男たち」3人が
ケーキを切るかのように中東問題を決定していくのを見るのは
恐怖だったと辛辣(しんらつ)だ。
同じく英国大蔵省の代表として、
敗戦国ドイツの賠償を限定的にするよう尽力した
経済学者ケインズも、3人の首脳に絶望してパリを去る。
全ての罪を独国に着せ、
その経済力を奪った英米仏の報復的賠償策が
失敗とわかるのに時間はかからなかった。
つまり、近衛は危機を予測できなかった面がある。
(略)
いまここにある危機の正体を明らかにするために
加藤はこうして近代史を参照するのだと参考になった。
引用文の最後の一行、
「つまり、近衛は危機を予測できなかった面がある。」
の分析が深く、鋭い。
(本連載などをまとめた加藤の最新刊)
(半藤一利、保阪正康との鼎談。NHKの番組が本書の元になった)