江口圭一『十五年戦争小史』(ちくま学芸文庫、2020)

加藤陽子先生(以下敬称略)の推薦とあって迷わず手にした。
江口圭一『十五年戦争小史』(ちくま学芸文庫、2020)を読む。



加藤の解説
「日本と中国の過去と未来を考えるための通史」から引用する。


  今回、価格も形態も手に取りやすい文庫として装いを新たにした本書は、
  1989(平成元)年(以下西暦は下二桁で表示)から
  大学で日本近代史を教え始めた私にとって、
  この一冊は必ず入手して座右に置いて貰いたい本として
  参考文献のトップに載せ続けた思い出深い本である。


  原版は青木書店から86(昭和61)年に刊行され、
  91年に新版刊行、98年時点で24刷に達していた一事からも
  極めて多くの読者を得てきた本だといえる。
  ならば、講義用テキストとして最適の本とはいかなる本をいうのか。
  (略)


  教壇に立って30年を超えた私にとって、
  大学の講義で用いるのに格好の本は、
  大きな時期区分ごとに、年表、関係地図、制度の説明、
  組織の変遷、人事の検討の五点セットを載せてくれている本である。
  (略)

                            (p.378)



加藤が大学講義用テキストの必要条件に
制度、組織、人事を入れていることが発見だった。
歴史を学ぶとはそういうことなのだ。


江口の「第一版へのあとがき」から引用する。
講義の組み立てが細部まで計算されている。


  一年度間の講義回数は、
  集中講義および学園祭や学会出張による休講があるので、
  24回前後であり、本書もこれにあわせて24章構成とし、
  また一章はすべて四小見出し構成としてある。
  講義時間は90分であるが、実質は80〜85分くらいだから、
  一小見出し分は平均約20分の講義に相当するものである。


  私は現代がテレビ時代であることを考慮して、
  講義はいわば連続ドラマの形にし、
  一回ごとに一テーマを完結させ、時間に積み残したりしない、
  ナイター中継ではないのだから
  講義時間内に必ず終わるようにし、時間延長はしない、
  講義を四区分し、コマーシャル・タイムにあたるものとして、
  途中三回の黒板の板書を消す間の小休止を設ける
  というスタイルをとっているが、
  本書の構成はこの講義スタイルに対応するものである。

                    (pp.369-370)


「アジア太平洋戦争下に日本本土で餓死した日本国民は一人もなく」
(p.289)との断定的記述に?だったり、
「おわりに 十五年戦争の加害・被害・責任」(pp.330-338)などで
昭和天皇の戦争責任を追及する筆致が厳しいことには違和感を覚えた。
けれども、加藤が薦める通り、
日本近代史を「十五年戦争」の軸で眺める基本書として
「座右」に置いて役立つ良書だと思う。