瞬きに似た感触で降り出した(宮園佳代美)

クリッピングから
讀賣新聞2019年11月12日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週は万智さんが選び評を書いた句に僕も惹かれた。


  瞬きに似た感触で降り出した
  雨の視線を浴びて帰ろう

       高島市 宮園佳代美


  【評】さりげなく降り出した雨を捉えた「瞬き」が新鮮だ。
     その比喩を受けてさらに広げた下の句も、いい。
     雨への親和性、一体感が、優しく伝わってくる。


豪雨のような激しい雨でなく、
パラパラと降り始めた雨の情景、感触が「瞬き」で伝わってくる。
「帰ろう」の一語も効いてるなぁ。
帰る場所がある、ホッとする気持ちが読み取れる。


   コンビニのおにぎりみたいにスーツ着て
   陳列されて内定を待つ


            小平市 小林愛


   【評】指定されているわけではないのに、
      ほぼ同じような恰好(かっこう)が揃(そろ)う
      リクルートスーツ。横並びの画一性を、
      日常的なコンビニのおにぎりで表した比喩、
      その自虐性が冴(さ)える。


万智さんの評の「自虐性」の一語がこの句の魅力を
見事に伝えている。
「同じようなリクルートスーツでなく、
若者らしくもっと個性を表現した方がいい」
などと無責任な発言をする大人たちがいつもいる。
その考え方、発言こそ画一的で個性がないことを知った方がいい。
言葉と裏腹の面接官たちに対峙し、リスクを背負うのは
当事者の若者たちなのだ。
だからこそ、この句の「自虐性」が活きている。


   お下がりの黒のコートを外套と
   呼んだらここはパリの街角


            狭山市 えんどうけいこ


軽妙な一句に思わず苦笑い。
考え方ひとつで日々の生活にうるおいが生まれる。
「外套」の古風な語感が生きてますね。
いまのパリでなく、ずっと昔のパリの街角のイメージが涌いてきます。


日中仕事でワサワサしているときには
なかなか句を味わう気持ちの余裕がありません。
iPhoneクリッピングしておいて、
後でリラックスできる時間に読むのがなによりです。


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