物語の中にいったん入ってしまうと
頁をめくる手が止まらない。
秋の夜長とは言え、危険だなぁ、この人の作品は。
辻村深月(つじむら みづき)『傲慢と善良』(朝日新聞出版、2019)を読む。
冒頭、サスペンス仕立てで幕が開く。
夜の中を、彼女は走っている。
街灯に乏しい深夜の住宅街の闇の中を、
せめて明るい場所に出るまでは、と休まず全力で。
身体が震えていた。恐ろしくて、悲しくて。怖くて。苦しくて。
(p.3)
主人公・坂庭真美(さかにわ まみ)は
正体不明のストーカーが留守中自宅に侵入していることに気づき、
婚約者の西澤架(にしざわ かける)の携帯に救いを求める。
「結婚」がこの小説のテーマになっている。
人はなぜ結婚するのか。
そのプロセスで何を失い、何を得るのか。
家族となった後にどんな風景が見えてくるのか。
東日本大震災で被災した宮城県・石巻が
後半、作品の重要な舞台として登場してくる。
第一部は架の視点から、
第二部は真美の視点から書かれた二部構成。
自らに課した枠の制約を壊していくダイナミズム、
ディテールへのこだわりが辻村深月の文章にはある。
ああ、今夜も夜更かししてしまったよ……
もう寝なくちゃ。
(この作品で辻村ワールドにハマりました)