佐藤優『還暦からの人生戦略』(青春新書インテリジェンス、2021)

インテリジェンス能力を日常でどう使いこなすか。
ひとつの応用例を見るようだった。
佐藤優『還暦からの人生戦略ー最高の人生に仕上げる”超実践的ヒント”』
(青春新書、2021)を読む。



外務省に勤務していた佐藤が
背任と偽計業務妨害罪容疑で逮捕、起訴されたのは2002年。
以来、作家として身を立ててきたので、
直近20年ほどは官庁・民間会社などの組織に勤めたことはない。
(母校・同志社大学などで客員教授は現在も務めている)


けれども、取材や公開情報などを通じて
還暦前後の会社員の状況、心理を的確に掴めるのは
インテリジェンス能力の賜物なのだと思えた。
本書で筆者は独自の視点から
対象となる年齢の読者にアドバイスを送っている。
「まえがき」から引用する。


  2020年1月18日、私は還暦を迎えた。
  それから1年と少したって、生活に変化が起きたことを実感する。


  第1に、しばらく連絡が途切れていた高校時代の友人と会ったり、
  電話で話したりすることが増えた。
  民間企業に勤めた人や学校教師になった人は60歳で定年になる。
  その後、1年更新で再雇用され、65歳まで働くという人がほとんどだ。


  再雇用になると賃金が少なくなるという心構えは、誰もができていた。
  しかし、「実際に収入が減ることで受ける心理的ダメージが
  こんなに大きいとは思わなかった」と皆が異口同音に言う。
  特に、大企業の事業本部長や部長で年収1500万円程度だったという人が、
  再雇用で年収300万〜500万になったときの衝撃は大きいようだ。


  「佐藤、再雇用になり3ヵ月経って気づいたんだけど、
  貯金が目減りしていく。
  こうして少しずつ自分の貯えを切り崩していくのが
  今後の人生なのかと思うと、何とも形容しがたい不安に陥る」
  と言われた。


  高校教師だった友人からは
  「講師として週5回勤務すると、教えている内容は変わらないのに、
  給与は現役時代の6割、週4回だと4割になる。
  それと、担任を持たないので生徒との関係が希薄になり、寂しい」
  という話を聞いた。


  問題は収入減少だけではない。
  「会社の元部下たちから、仕事上の相談をされることがなくなった」
  「向こうから挨拶してくる人が減り、
  いつも自分から挨拶するようになった。
  自分が一段階低く見られるようになった気がする」
  という不満もよく聞く。


  組織には組織独自の文化があり、そこには人事評価も含まれる。
  会社、役所、学校はいずれも現役を中心に回っているため、
  定年後に再雇用されている人は、いわば準構成員のような扱いだ。
  それまで組織の中心で活躍していた人ほど、
  そのような環境に置かれることに耐えられない。


  本書で私が提示する処方箋は、
  そのような環境で強く生き残っていくためのものだ。
  それには、できるだけ早い時期に
  周囲が決める他律的評価で生きることをやめ、
  自律的価値観を持つことが重要だ。

                  (pp.3-4)


巻末付録として池上彰との対談(「BIG tomorrow」所収、2017)を
再編集し、掲載。


  (編集協力:本間大樹/編集担当:岩橋陽二(青春出版社))


(シリーズ累計で70万部売れている)


f:id:yukionakayama:20210627171629j:plain:w650