いくつものゆびきりをしてゆくように(小林真希子)

クリッピングから
讀賣新聞2020年6月22日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週は最優秀作の筆頭に選ばれた一首に惹かれました。
万智さんは評に5行を費やしています。


  いくつものゆびきりをしてゆくように
  支柱にからむ朝顔の蔓

         平塚市 小林真希子

     【評】くるんと絡みつく蔓(つる)を、
        ただの指ではなく指きりの指としたところが素敵だ。
        何のための指きり? 
        それはもちろん、夏に咲くという約束である。
        多用した平仮名の優しいカーブが、蔓を思わせるところも工夫だ。


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優秀作の中ではこの歌が好きです。


  算数を数学と呼ぶ子の声が
  一オクターブ下がるはつ夏

       船橋市 矢島佳奈


中学に進学した息子の科目名の変化と
声変わりに着目した母の視点が新鮮でした。
最後の「はつ夏」も効果を上げているように思います。
コロナ禍の休校・分散登校等で苦労する子ども、親たちに
夏の日差しが差し込むような気持ちがしました。


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池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題 11』(角川新書、2020)

一年にほぼ一冊のペースで、
池上さんが世界の大問題を地域別に再整理して解説してくれる。
池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題 11 グローバリズムのその先』
(角川新書、2020)を読む。



構成はこうなっている。


冒頭に世界地図を出し、
「ポスト・コロナに世界はどう備えるか?」の表題で本書の内容を先出しで俯瞰。
続いて「世界の縄張り争い1/2/3」「世界の宗教」を8頁でまとめる。
「プロローグ」に続いて、世界の問題を各地域に分け、
以下6章で解説。


  第1章 アメリ
  第2章 ヨーロッパ
  第3章 中東
  第4章 東アジア
  第5章 グローバル
  第6章 日本


「エピローグ」「おわりに」「主要参考文献案内」が続き、
全279頁、990円(税込)也。
以上の骨組みはほぼ変わらない。



「主要参考文献案内」を読む。
日頃話題になっている書籍に
池上さんがまめに目を通しているのが分かる。
『ペスト』カミュ/宮崎峯雄・訳(新潮文庫)、
『コロナの時代の僕ら』パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介・訳(早川書房)、
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ(新潮社)、
『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎(光文社新書)などだ。


コロナの時代の僕ら

コロナの時代の僕ら


池上さんが敬愛する宇沢弘文の著書、関連雑誌が3点入っている。
『社会的共通資本』(岩波新書)、『経済学と人間の心』(東洋経済新報社)、
現代思想2015年3月臨時増刊号/宇沢弘文—人間のための経済—』(青土社)。
本書を読み、さらにあるテーマを深掘りしてみたくなれば、
この案内を手がかりに連読すればいいのだ。


社会的共通資本 (岩波新書)

社会的共通資本 (岩波新書)


僕は「知ら恥」シリーズのよさを知って、
2009年の第1弾から遡って手にしてみた。
単年では読み取りづらかった世界の動向が、
複数年に渡る池上さんの解説で「目ウロコ」のように解読できることがあった。
日々の新聞の読み方も変わってくる。
累計193万部売れ、着実に読者をつかんでいるのも、むべなるかな。


  編集担当:辻森康人(株式会社KADOKAWA
  編集協力:八村晃代


(「知ら恥」シリーズ第1弾)

地元K図書館、閲覧席利用ルールができました

我が家から一番近い公立K図書館。
明日6/24から再開する閲覧席利用ルールが判明しました。


2時間ごとの入れ替え制、各回10名までの利用に限定。
9時から19時(祝日は17時まで)の開館時間を5つの時間帯に分けます。
①9-11時 ②11-13時 ③13-15時 ④15-17時 ⑤17-19時(祝日はこの時間帯はなし)
それぞれの時間帯開始30分前から利用券配布(①は9時から)。
時間帯をまたぐ利用、延長利用はできない。
マスク着用での利用。入退館前後は手指の消毒。


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都内の他の区や、都立・国立図書館サイトを調べてみました。
利用者数をおおむね半分以下に減らすために
それぞれ予約制、利用時間限定を採用していました。
僕は当面、ネットでの予約、カウンターでの受け取り・返却に限定して
活用していこうと思います。
取り置きになっていた3冊を借りてきました。


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書籍購入予算が限られている活字中毒者には
読みたい本が借りられるだけでありがたい。
図書館スタッフのみなさん、
区内各館の蔵書を移動するワゴン車運転手のみなさん、
サイトを運営するみなさんに大感謝!です。
このシステムを回す現場で働く方たちです。

限定15組 くわしくはじどうかんへ !

5月にお伝えした、散歩コース途中のP児童館。
新しい貼り紙が出ました。


  臨時子育てひろば はじまります !!
  日時 6/10〜26の水・木・金曜日 10:30-11:30
  申込 1週間前から電話予約
     限定15組 くわしくはじどうかんへ !


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全面再開はまだ先のようですが、
子育てに悩みを持つ親御さんたちの交流の場を始めるらしいです。


前回訪れた時、
草に隠れて見えなかったスタッフのあだ名を知りたくて
草をどけて撮影してきました。
残る二人は「あかりん」と「むらまっちょ」であることが判明しました。


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僕が写真を撮っていたら、女の子二人が三輪車で近付いてきて
「何してるんだろう?」と怪訝な様子。
マスク姿の怪しいおじさんと思われてしまったかもしれない。
いけないことをしていた訳じゃないけど、早く退散したい。


じどうかん、早く再開するといいね。
おじゃましました〜!

多和田葉子『地球にちりばめられて』(講談社、2018)

6/2付讀賣新聞朝刊のインタビュー(聞き手:文化部・待田晋哉)
作者・多和田葉子は新作『星に仄(ほの)めかされて』について
こう発言している。


  この旅をする若者たちはまだ家族も、定職もない。
  モラトリアムのような存在です。
  社会の経済を支える柱ではないけど、
  彼らのような『流動分子』によって世界の文化交流は起きる。


「流動分子」という不思議なキーワードに惹かれて、
このシリーズ前作『地球にちりばめられて』を借りてきた。
(地元の公立図書館は6/1から段階的にサービスを再開。
 6/24からは書架、座席の2時間以内での利用が可能になる)


地球にちりばめられて

地球にちりばめられて


登場人物のひとりHirukoはスウェーデンイェーテボリ大学留学中に
祖国(日本と想定される)を喪失。
以来、移民としてノルウェーを経て、現在デンマークに住んでいる。
Hirukoは異国で生き抜くために人工言語を作ってしまう。


  メルヘン・センターの求人広告を「週刊ノルディック」で見つけて応募した時、
  わたしはまだノルウェートロンハイムに住んでいた。
  ちょうど大学に残れないことがわかった時だった。
  しかも、帰ろうと思っていた国が消えてしまったので、
  これからどこで暮らしたいいのか分からなくて途方に暮れていた。


  メルヘン・センターの求人広告を読みながら、
  ふと、わたしのつくった言語を移民の子どもたちに教えてみたいと思いついた。
  この言語はスカンジナビアならどの国に行っても通じる人工語で、
  自分では密かに「パンスカ」と呼んでいる。
  「汎」という意味の「パン」に「スカンジナビア」の「スカ」を付けた。


  スウェーデンには「ポールスカ」と呼ばれる民族舞踏があり、
  ポーランドから来たという意味にとれるのだが、
  実際のところ、この踊りはスカンジナビア起源ではないかと言われている。
  その不思議さを語感にいかしてみた。


  わたしのパンスカは、実験室でつくったのでもコンピュータでつくったのでもなく、
  何となくしゃべっているうちに何となくできてしまった通じる言葉だ。
  大切なのは、通じるかどうかを基準に毎日できるだけたくさんしゃべること。
  人間の脳にはそういう機能があることを発見したことが何よりの収穫だった。


  「何語を勉強する」と決めてから、教科書を使ってその言語を勉強するのではなく、
  まわりの人間たちの声に耳をすまして、音を拾い、音を反復し、
  規則性をリズムとして体感しながら声を発しているうちに
  それが一つの新しい言語になっていくのだ。

                              (pp.37-38)


言語フェチである僕は
こうした一節を読むと物語にグッと引き込まれしまう。
多和田葉子とはどんな作家なんだろう。
2017年4月18日讀賣新聞朝刊
作者のこんな紹介がある。


  早大卒業後、1982年にハンブルグへ渡った。
  91年にデビューし、『雲をつかむ話』(読売文学賞)をはじめ精力的に執筆を続ける。
  2006年からベルリンに住み、日本語のほかドイツ語でも創作を行い、
  昨年(引用者注:2016年)はドイツの権威あるクライスト賞を受賞した。


6/2付の前掲記事にはこんな紹介もある。


  東京生まれ。早稲田大卒業後、22歳のときドイツに渡り、
  日独2言語で創作するようになった。
  1993年に『犬婿入り』で芥川賞を受賞した。
  「当時は芥川賞を取ったのに、なぜ日本に帰らないのかとよく質問された」と振り返る。
  (略)


  近年は、国内外でノーベル文学賞に近い存在として評価が高まる。
  「誰が受賞するかによって作品について話す機会になり、政治的な議論もわき上がる。
  ほかの文学賞ではそこまで話題にならないしその意味では面白いのかな」と語る。


多和田は同記事でこうも言っている。


  だからこそ境界を越える者の共同体のようなものを書きたかった。
  若くはないけれど、国から国への移動が多い私も一種の流動分子。
  精神的なものを彼らに託していると思う。


「流動分子」と自認し、ベルリンを本拠地に
日独2ヵ国語で作品を発表している多和田でなければ
日本国の消失をこの作品のようには表現できなかったろう。
シリーズは当初の三部作の予定を超えて、
さらに広大な物語になるらしい。
展開が楽しみだ。


星に仄めかされて

星に仄めかされて

百年の散歩 (新潮文庫)

百年の散歩 (新潮文庫)

少しずつ、用心深く、あきらめない

金曜日、約3か月ぶりに同居人が
「東京コピーライターズストリート」録音に出掛けました。
夜食用に同居人のソウル・フード
ベーコンじゃがいも炒めを作っておきます。
これさえあれば機嫌がいいのです。


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僕の留守番賄い食は
焼きソーセージ、ブロッコリー
貝殻型パスタを入れたミートソースグラタン。
冷凍庫整理のため、
同居人が食材(ミートソース、ソーセージ)を放出したと思われます。


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指示された通り、粉チーズをたっぷり振りかけ、
240℃のオーブンで焼いてみました。
このメニューだと赤ワインが飲みたくなります。
ビールの後は、グラスワインにしますかね。


予想より早く、収録・打ち上げ(感染防止対策配慮)を終えた
同居人が、副会長と一緒に帰ってきました。
お互いの距離に注意しながら、シングルモルトウィスキーで乾杯。
これまでと同じような行動を取るためには、
これまでとは違う手間暇が必要となるんだな、と気づきます。


ショットグラスで一杯ずつ飲んで
いつもより早めに散開。
少しずつ、用心深く、でもあきらめはしない、
と言った心構えで日々過ごせるといいですね。


例えば人通りの少ないところではマスクを外し、
誰かと距離が近くなったらまたかける。
マスクを上げ下げする手間を惜しまないだけで
気持ちも身体もラクになります。

カザフスタンに帰って行った日本人

クリッピングから
東京新聞2020年6月19日朝刊
阿彦哲郎さん死去 元カザフ抑留者


この方のことは存じ上げないが、
訃報を読み、どんな人生を過ごしたのか気になった。


  第二次大戦後に旧ソ連カザフスタンに抑留され、
  現地で暮らしてきた阿彦哲郎(あひこてつろう)さんが17日、
  老衰のため同国中部カラガンダアクタス村の自宅で死去した。
  89歳だった。
  親族などが明らかにした。


  日本側が把握する元抑留者の中で、
  解放後も現地に残り存命だった最後の一人とみられる。
  1930年樺太・本斗(現ロシア・サハリン州ネベリスク)生まれ。
  45年8月のソ連の対日参戦で樺太が占拠された後もとどまり
  48年に逮捕された。


  旧ソ連各地の収容所を転々とした後に、
  カラガンダ州の収容所に移され54年に解放。
  同州アクタス村で家庭を持った。
  94年に初帰国し、2012年には永住帰国の意向で札幌市に移住したが、
  生活になじめず、14年に再びカザフに戻った。
  阿彦さんの半生を描いた劇「アクタス村の阿彦」がカザフの国立劇団により舞台化され、
   17年12月には東京公演も行われ、
  これに合わせて一時帰国したのが最後の日本訪問になった。
(モスクワ・共同)


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淡々と記された事実の行間に、
時代の波を生き抜いた、ある日本人の物語を読み取ってみたくなる。
ご冥福をお祈りします。