短歌/俳句/川柳

つぎつぎと書類のように葉が積もる(あきやま)

クリッピングから 讀賣新聞2023年10月30日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 つぎつぎと書類のように葉が積もる 忙しそうな秋の職場で 越谷市 あきやま 【評】書類が木の葉のように降り積もる職場ではない。 書類のように木の…

鈴虫鳴けり番台辺り(塩田淳文)

クリッピングから 讀賣新聞2023年10月23日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 吸い過ぎは毒だと写真に言い聞かせ 好みの煙草二本だけ置く 東京都 伊藤直司 【評】写真は遺影だろう。 もう思いきり吸わせてやってもいいのだが、 …

第2回 大手小町短歌大賞 作品募集

クリッピングから 讀賣新聞2023年10月16日朝刊 大手小町短歌大賞 第2回作品募集 働く日々 31音に 思い乗せ 読売新聞の女性サイト「大手小町」は、 日々働く全ての人を応援する 第2回「おしごと小町短歌大賞」の候補作を募集します。 テーマは「働く、育む」…

深いところで待ち合わせてさ(柏倉未知佳)

クリッピングから 讀賣新聞2023年10月16日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 死亡日をどの書類にも書かされて 母は夫を何度もなくす 千葉市 芍薬 【評】つらい日にちを何度も書かされる母。 そのたびに、夫の死を念押しされる…

ひらがなの柔軟体操する声聞こゆ(富見井高志)

クリッピングから 朝日新聞2023年10月9日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 まず土地に杭を打ち込むようにして 二人暮らしにたてる歯ブラシ 越谷市 あきやま 【評】ともに暮らすとは、 歯を磨くというような日常を共有すること…

それぞれが一輪となる秋の放課後(桐島あお)

クリッピングから 讀賣新聞2023年10月2日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 追熟をゆるされた果実のように ふたりは睡る常温の部屋 横浜市 紺屋小町 【評】全体のエロティックな味わいを支えて光るのは、 クーラーをつけていな…

熱風が光の海を吹き荒れて(小金森まき)

クリッピングから 讀賣新聞2023年9月25日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 熱風が光の海を吹き荒れて 帆を張るやうに日傘をひらく 千葉市 小金森まき 【評】今年の夏の暑さは、 まさに上の句に表現されるような凄(すさ)まじ…

「つかれおわった? あそぼ」と笑う(袴田朱夏)

クリッピングから 讀賣新聞2023年9月18日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 汗の身を二つに折りて 自らの皮膚はぐように君はシャツ脱ぐ たつの市 七條章子 「疲れた」と寝ころぶわれに三歳が 「つかれおわった? あそぼ」と笑…

風鈴たちの喉の透明(toron*)

クリッピングから 讀賣新聞2023年9月14日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 ゆく夏のボーイソプラノ吊り下がる 風鈴たちの喉の透明 奈良市 toron* 【評】風鈴の高音とボーイソプラノ。 音だけでなく喉ぼとけの形や、 ボーイソ…

わが遠き日に得し恋のすゑのいのちよ(板坂寿一)

クリッピングから 讀賣新聞2023年9月4日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 御朱印を捺す神職はかぶさりて 自重を掛ける出雲路の夏 瑞穂市 渡部芳郎 【評】旅のスケッチ的な一首だが 「かぶさりて」さらに「自重を掛ける」とい…

今さら音がなる遠花火(月館桜夜子)

クリッピングから 讀賣新聞2023年8月28日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 団子屋のおかみがくれる釣り銭の ぬるさも嬉し夏のゆうぐれ 千葉市 芍薬 おすすめを会うたび一冊ずつ貸して 互いに小さな図書館になる 越谷市 あきや…

トースター開けたときのような熱気受け(鷹取真子)

クリッピングから 讀賣新聞2023年8月21日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 トースター開けたときのような熱気受け 玄関ドアを一旦閉じる 大阪市 鷹取真子 【評】猛暑を詠んだ歌が多く寄せられたが、 比喩と実感が際立っていた…

マグマのようなベリーのソース(藤 雪陽)

クリッピングから 讀賣新聞2023年8月15日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 「飲むか?」ってあなたのくれるひと口が ビールのなかでいちばん好きだ 川崎市 佐藤美加 【評】ふっと気づいてくれて、 すっと渡してくれるグラス(…

有明のダイヤモンドの街灯を(阿坂れい)

クリッピングから 讀賣新聞2023年8月7日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 教科書に腕立て伏せをさせながら 詩の風にきみは眠りつづける 川崎市 からすまぁ 【評】詩のページを開いたまま、 顔か胸の上に山型に教科書を伏せて…

人力でタイムマシンを押すように(吉村おもち)

クリッピングから 讀賣新聞2023年7月31日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 人力でタイムマシンを押すように 二人がかりで資料をさがす 八王子市 吉村おもち 【評】過去の膨大な資料を一つ一つ調べながら、 探しものをしている…

ふるさとの言葉かさねてわが母を(武井恵子)

クリッピングから 讀賣新聞2023年7月24日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 月面をはじめて歩く人となり あなたの部屋のリビングにいる ふじみ野市 雨雨雨汰 【評】初めて部屋に招き入れられたときの、 緊張感からくるぎこちな…

二人はまだ、別々の単語として存在している

クリッピングから 讀賣新聞2023年7月17日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 検索の単語のようなスペースを 空けて座れり観覧車にて 大阪市 原拓 【評】ぴたっとくっつくほどの仲ではない。 微妙な隙間を捉えた上の句の比喩が面…

雨傘をぶっつけながら小一は(四之宮光里)

クリッピングから 讀賣新聞2023年7月11日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 雨傘をぶっつけながら小一は 紫陽花のごと密で帰りぬ 飯能市 四之宮光里 【評】「ぶっつけながら」が生き生きとしている。 子どもたちは傘をさしてい…

かざし見るなり刀のごとく(原 拓)

クリッピングから 讀賣新聞2023年6月26日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 検品の傘を開きておじさんは かざし見るなり刀のごとく 大阪市 原 拓 【評】傘の骨に異常がないかを確かめる所作。 やや大仰な感じでもあり、 プロな…

ジャングルジムに上昇気流(大津穂波)

クリッピングから 讀賣新聞2023年6月19日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 ワンタンのいちばん雲っぽいやつを あげて涙のつづきを聞いた 豊中市 葉村直 特別で適切な物に包まれたい レタスのセロファンバターの銀紙 三次市 山…

我らは夏をまだ知らぬ鉢(住吉和歌子)

クリッピングから 讀賣新聞2023年6月13日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 唐揚げにレモンの染みる瞬間に じゅっと衣の逆立つ真夏 小諸市 藤 雪陽 それぞれの種を抱えて眠りいる 我らは夏をまだ知らぬ鉢 札幌市 住吉和歌子 2…

風であることをやめたわけではない

クリッピングから 讀賣新聞2023年5月29日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 風だった子らを並べてあたらしき 一年生の教室涼し 京都市 袴田朱夏 【評】自由にのびのびと走り回っていた子どもたち。 でも、風であることをやめた…

手のひらにクリーム広げゆくように(大津穂波)

クリッピングから 讀賣新聞2023年5月22日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 さざなみのやうにめくれば この本のわれはただひとりの航海者 千葉市 小金森まき 【評】本のページを波にたとえるとき、 読書とは、その波の広がる海…

半分を過ぎれば下り坂となり(宮園佳代美)

クリッピングから 讀賣新聞2023年5月16日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 半分を過ぎれば下り坂になり ぐんぐん頁が減る文庫本 高島市 宮園佳代美 【評】途中からエンジンがかかって、 どんどん頁(ページ)をめくる手が止ま…

道端の花を縫ひ合はせるやうに(小金森まき)

クリッピングから 讀賣新聞2023年5月1日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 道端の花を縫ひ合はせるやうに 歩いて春の仕立て屋になる 千葉市 小金森まき 【評】道沿いの花を見ながら歩く。 右端に寄っては見、左端に寄っては見…

こもれびは日かげに生きるものにしか(関根裕治)

クリッピングから 讀賣新聞2023年4月25日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 こもれびは日かげに生きるものにしか 与えられないやさしいひかり 上尾市 関根裕治 【評】木の葉で覆われているからこそ、木漏れ日は生まれる。 「日…

福神漬けを多めにあげる(老川瑠莞)

クリッピングから 讀賣新聞2023年4月18日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 まずこれを愛と仮定してみましょう 福神漬けを多めにあげる 山梨県 老川瑠莞 【評】目に見えない愛を、 真っ赤な副菜である漬物にたとえるアイデア。…

俺たちにないのは明日じゃなく昨日(安西大樹)

クリッピングから 讀賣新聞2023年4月10日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 優秀作3首、万智さんの評を読みながら味わいます。 俺たちにないのは明日じゃなく昨日 振り向けば春一番が吹く 横浜市 安西大樹 【評】コロナ禍を振り返る歌が多く寄せられた中で、 最も印…

折りぐせのついた楽譜をしんしん燃やす(永汐 れい)

クリッピングから 讀賣新聞2023年4月3日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 信じないことはたやすい 折りぐせのついた楽譜をしんしん燃やす 花巻市 永汐 れい 【評】つまり、信じることは、 本当に難しいという思いをかみしめる…

ガラケーに残りし声の消しがたく(飯吉セキ子)

クリッピングから 讀賣新聞2023年3月27日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 お歳暮をやさしくあけて包装紙 なでてたたんだ母のゐた冬 仙台市 岩間啓二 【評】動詞で描いた母親像。 特に「なでて」に、単にものを大事にする以上…